AI、CD、ビートルズ。近田春夫の予言と音楽の未来(「2024年を振り返る」後編)【近田春夫×適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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AI、CD、ビートルズ。近田春夫の予言と音楽の未来(「2024年を振り返る」後編)【近田春夫×適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第78回


音楽業界も激動の時代を生き抜いてきた。ビジネスモデルが変化する中、波に飲まれて消えていった連中もいれば、ローリング・ストーンズのようになにも変わらないことで生き抜いてきたミュージシャンもいる。20世紀末の時点で、音楽はいずれタダになると予言していた近田春夫氏と『自民党の大罪』(祥伝社新書)で平成元年以降、30年以上かけて、自民党が腐っていった過程を描写した適菜収氏の異色対談の後編。「だから何度も言ったのに」第78回。また適菜氏は、近田氏と宮台真司氏との共著『聖と俗  対話による宮台真司クロニクル』の帯推薦文を寄稿し話題になっている。


2024年7月21日、ミズーリ州リッジデールのサンダーリッジ・ネイチャー・アリーナで行われた「ハックニー・ダイアモンズ」ツアーのローリング・ストーンズ(写真提供:エイミー・ハリス/インビジョン/AP)

 

適菜:先日、成田悠輔という人物がこんなツイートをしていました。「人は音楽にお金を使わない。ライブ、ストリーミング、CDなど含む全音楽の全世界の売上は年間10兆円以下らしい。この売上は三菱商事1社より小さい。ちっちゃなパイを無数の天才が奪い合ってる血の海が音楽という市場」。

近田:音楽は、ビジネスのジャンルとしてはずいぶん縮小しちゃったってことですね。

適菜:私は大学生時代に渋谷でアルバイトをしていたので、仕事が終わるとその足でディスクユニオンとレコファンに立ち寄って中古CDを買うのが楽しみだったんです。自分の部屋のラックにCDが溜まっていくのがうれしかった。

近田:適菜さんの大学時代というと、90年代半ばってことだよね。

適菜:ええ。ところが、サブスク時代の今になってみれば、CDなんて邪魔でしょうがない。20年くらい前にCDはほとんど処分したのですが、つい先日引っ越しした際には、部屋に残っていたCDも二束三文で全部売っ払っちゃいました。もう、とにかく物はできるだけ減らしたい。

近田:もはや、フィジカルなCDを購入するのは、相当コアなファン以外にいない。つまり、消費という行為は、忠誠心の証明となってしまった。秋元康が導入したAKB46の握手券商売ってのは、フィジカル時代の終わりに打ち上げられたド派手な花火だったんだと思うよ。

適菜:CDは最後のメディアになると思っていましたが、外れました。音楽が単なるデータとしてウェブに飲み込まれるとは、昔は考えてもいませんでした。

近田:時代は変わるよね。でも、俺は、20世紀末の時点で、音楽はいずれタダになるって予言してたんだよ。インターネットの現状に鑑みれば、それが事実上、達成されちゃったことは分かるでしょ? 

適菜:ええ。ほとんどの楽曲の音源は、Youtubeなどを探せば、どこかに転がっている。

近田:さらにいえば、音楽って、聴くよりも作る方が楽しいじゃん。そのために必要なソフトウェアが廉価あるいは無料になったり、わざわざ録音スタジオを手配する必要もなくなったりして、音楽制作の民主化が進み、世間では、リスナー指向よりクリエイター指向が高まった。それは、コンピュータが誕生した時点で決まっていた運命だったんじゃないかと思う。

適菜:これは原点回帰なのかもしれませんね。音楽が媒体に記録されて商品になること自体、それほど長い歴史があるわけではないのですから。音楽のみならず、動画におけるYouTuberの大発生というのも、同じ文脈ですよね。

近田:そうそう。まったくその通り。今、若い子は、テレビなんかろくに観ちゃいないもんね。でもさ、自分たちの手がけた成果物が採算につながるかどうかは、よっぽど本格的に事業化を狙っている向き以外には関係ない。単に、作ることそれ自体が楽しいってことでさ。TikTokなんてその最たるもんでしょ。

適菜:近田さんは、AIについてはどんな考えをお持ちですか。

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近田春夫×適菜収/下井草秀

ちかだ はるお×てきな おさむ/しもいぐさ しゅう

近田春夫(ちかだ はるお)

音楽家。1951年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。1975年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、近田春夫&ビブラトーンズ、ビブラストーン、President BPM名義でも活動する一方、タレント、ラジオDJ、CM音楽作家、作詞家、作曲家、プロデューサーとして活躍。現在は、バンド「活躍中」、ユニット「LUNASUN」のメンバーとしても活動する。文筆家としては、「週刊文春」にJポップ時評「考えるヒット」を24年にわたり連載。著書に『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(ともに文春新書)など。最新刊は宮台真司氏との共著『聖と俗  対話による宮台真司クロニクル』(KKベストセラーズ)。

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』、日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』『日本をダメにした新B層の研究(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』『安倍晋三の正体』『自民党の大罪』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

 

下井草 秀(しもいぐさ しゅう)

1971年宮城県生まれ。エディター/ライター。音楽、映画、書籍といったカルチャーに関する記事を「TV Bros.」「POPEYE」などに寄稿。また、照山紅葉(秦野邦彦)との「ダミー&オスカー」、川勝正幸との「文化デリック」としてユニット単位でも活動する。これまでに構成・執筆を手がけた単行本に、細野晴臣・星野源『地平線の相談』(文藝春秋)、横山剣『僕の好きな車』(立東舎)、ジェームス藤木『ジェームス藤木 自伝』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、近田春夫『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、同『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(文春新書)などがある。取材・構成を行った最新刊は、宮台真司・近田春夫『聖と俗 対話による宮台真司クロニクル』(KKベストセラーズ)。

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